ウィルヘルム=バインズ版 秋山さと子訳『易経』(1) 十二消息卦

訳:ウィルヘルム(独)→バインズ(英)→秋山さと子(日)

旧暦1月 泰(地天泰)

彖に曰く、泰は小往き大來る。吉にして亨るとは、則ち是れ天地交わりて萬物通ずる也。上下交わりて其の志同じき也。内は陽にして外は陰、内は健にして外は順、内は君子にして外は小人、君子の道長じ、小人の道消する也。

大地は 天の精気を受け
天は 大地の心に感じて
美しいハーモニーを奏でる
それは 豊かな 春の調べだ
あらゆるものが 再び生まれ変わり
すべては 光と喜びに 輝く
君の心は 力強く 創造力に満ち
周囲の人々は それを迎えようとする
天性の素質を 十分にのばすことだ
それが 世に認められる
争いごとは すべて終わって
すべてのものが 調和する
君の才能を 祝福する声が
あたりに 満ち溢れて
天地が和合し
生命の讃歌が とどろきわたるのだ

旧暦2月 大壮(雷天大壮)

彖に曰く、大壯とは、大なる者壯なる也。剛にして以て動く、故に壯なり。大壯は貞しきに利しとは、大なる者正しき也。正大にして天地の情見る可し。

創造的な力が 竜のように舞い上がる
なにをやっても成功する しかし
自分の力を 過信してはならない
運勢は まさに 君と共にあり
今は どんな望みも かなう
それは 君の力だけではない
ものごとが栄える運勢の潮時に
たまたま 出合ったからなのだ
人生は いつもいい時ばかりはない
運が味方する時に なすべきことは
外に向かって 強さを誇るよりも
内に向かって 礼を知ることだ
ものごとの 順と規律を学ぶことだ
宇宙の運行を 羅針盤に
自分の動きを知ることだ
ただ やみくもに 運勢に乗って
強い力を ふりまわしてはならない
人のためにも 自分のためにもよくない
運勢は盛んな時だけではない
どんな時にも 心正しく
時の流れと共に生きよう
宇宙の動きと 心の動きが調和する時に
はじめて 本当の礼儀が生まれる

旧暦3月 夬(澤天夬)

彖に曰く、夬は決する也。剛、柔を決する也。健にして説び、決して和ぐ。王庭に揚ぐるは、柔、五剛に乘ずれば也。孚ありて號ぶ、厲き有りとは、其れ危ぶめば乃ち光いなる也。邑より告ぐ、戎に即くに利しからずとは、尚ぶ所乃ち窮すれば也。往く攸有るに利しとは、剛長ずれば乃ち終れば也。

危険! 高みにせきとめられた水は
いつ溢れだすか わからない
のぼせあがった 小娘が
親にかわって支配するようなものだ
麓のくぼみで つつましく
静かに輝く湖が
天の高みに のし上がり
気違い雨を降らしたら
すべてのものが 壊れてしまう
ダムが崩れて 土砂を飛ばし
鉄砲水が 村を襲う
ものごとの上下と善悪は
すばやく 厳しく 裁くべきだ
小娘が あまり調子に乗らないうちに
小ものが すべてを支配する前に
決断が なにより大事な時だ しかし
勢いに乗って 相手を攻めてはいけない
それでは 小娘と同じことだ
落着いて しかも はっきりと裁くのだ

旧暦4月 天(乾為天)

彖に曰く、大いなるかな乾元、萬物資りて始む。乃ち天を統ぶ。雲行き雨施して、品物形を流く。大いに終始を明らかにし、六位時に成る。時に六龍に乗じ、以て天を御す。乾道変化して、各々性命を正しくし、大和を保合するは、乃ち利貞なり。庶物に首出して、萬國咸く寧し。

宇宙は 蒼黒い混沌の中に
創造の力を 秘めている その力は
空を舞う竜の群のように
たくましい 男の力だ
新たに輝く 太陽の下で
新しい秩序が生まれる
宇宙は父だ 変容の力だ 永遠の循環だ
日が昇り 日が沈み 星が輝く
宇宙の動きは いつも正確だ
この大自然の摂理のように
君が正しく 行動すれば
世の中に 不可能なことはない

旧暦5月 姤(天風姤)

彖に曰く、姤は遇ふ也。柔剛に遇ふ也。女を取るに用ふる勿れとは、與に長かる可からざれば也。天地相遇い、品物咸く章か也。剛中正に遇へば、天下大いに行はるる也。姤の時義大なる哉。

この宇宙の中の あらゆるものは
陰と陽 暗と明 女と男の
出遇いから 生まれる
対立するものが 争えば
不毛の天地を 作るばかりだ
風が空を舞って 陰の気を生む
暗さをふりまく この女は
最初は弱く やさしく見えても
次第に あたりを支配する
一人の女に 五人の男
男たちが 女のために争えば
すべてを得るのは一人の女だ
やさしげな顔で 近づくものは
不貞な女と似たようなものだ
才能と力に頼って
見かけの弱いものを あなどれば
争いに負けて すべてを失う
媚びを売るものや甘言を弄するものに
心を許さないことだ
風がしみ渡るように
心の隅々まで 気を配ろう
情緒に溺れて 人を見る目を失えば
一人の女でも 生命とりとなる

旧暦6月 遯(天山遯)

彖に曰く、遯は亨るとは、遯れて而して亨る也。剛、位に當たりて應じ、時と與に行う也。小は貞しきに利しとは、浸くにして長ずれば也。遯の時義大なる哉。

世の中が乱れ つまらない人たちが
勢いを得る時には
山の彼方に 隠遁しよう
日が沈みかける 夕焼の空の下に
くっきりと 山々が浮かび上がる
あの山の果て 空の果てまで 退こう
勇気を持って 退くことは
相手を恐れて 逃げるのではない
相手を憎んで 去るのではない
天の運行を さまたげないために
ただ いさぎよく 退くのだ
時に応じて戦い 時に応じて退く
退く時を 逃してはならない
力も地位もある間に
厳しく 自分を守って 退こう
その厳しさは 愚かな人たちにも
教えることがあるだろう
その力強さは 愚かな人たちを
遠くに とどめるだろう
真実を守り通す力があるなら
すべてを棄てて 恐れずに退く時だ

旧暦7月 否(天地否)

彖に曰く、之を否ぐは人に匪ず、君子の貞に利しからず、大往き小來るとは、則ち是れ天地交わらずして萬物通ぜざる也。上下交わらずして天下に邦无き也。内は陰にして外は陽、内は柔にして外は剛、内は小人にして外は君子。小人の道長じ、君子の道消する也。

心正しく 生きたくても
今は 天地が味方しない
暗い影が 迫りつつある
世の中が乱れ 小人が跋扈する
人望のある人も 周囲の者から去られ
心は ますます塞ぐ
それでも自分を 表に出せば
心広き人も 追われる
太陽は中天を過ぎて
夕闇が あたりを包む
英雄もまた いつかは死ぬ運命にある
この非情のときに 心正しいものは
ただ 自分を守って 時を待つことだ
陰陽の気が 交わらなければ
あらゆるものの 成長は止まり
暗闇に 身を潜める
理にかなわないことが 世の中を
支配する時だ
うろたえることなく
天の時を 待つ強さを持つことだ

旧暦8月 観(風地観)

彖に曰く、大觀上に在り。順にして巽、中正以て天下を觀る。觀は盥いて薦めず、孚有り顒若たりとは、下觀て化する也。天の神道を觀るに、四時忒わず。聖人、神道を以て教えを設けて、天下服す。

風にひらひらと 旗がひらめき
祭司は 神前で 観想のひと時を持つ
静けさの中に 人々の眼は
神秘的な その姿を 仰ぎ見る
昔 中国の天子は 天の運行に従い
季節毎に 四方の民を訪れて
政治(まつりごと)を行なった
風が地上を吹くように
天の教えは 人々の心に 行き渡る
空を仰いで宇宙の動きを見るように
ひと時の瞑想の中で
自分の心と向き合えば
さまぎまなイメージの 饗宴が
心の底から 湧き上がる
大自然が 自由に しかも
正確に動くように
心もまた 自由に そして正確に
千変万化して とまることを知らない
見るものは 外のものだけではない
心の中も おごそかに仰ぎ見よう

旧暦9月 剥(山地剥)

彖に曰く、剝は剝ぐ也。柔剛を變ずる也。往く攸有るに利しからず、小人長ずれば也。順にして之に止まる(之を止める)。象を覿る也。君子は消息盈虚を尚ぶ。天行也。

山は 空高く そびえてこそ
本当に山らしい
人もまた 心広く 気高くあってこそ
生甲斐のある人生が開ける
母なる大地に しがみついたまま
つまらない人々に もまれて暮しても
なにごとも 成就できない
あちらこちらを はぎとられ
ますます やせ細るばかりだ
目分の心を かえりみて
誇りと自信を 育てるべきだ
二本の足で 大地を踏みしめ
もう一度 自分で立つことを考えよう
いつまでも 人に頭を下げ
親や他人に頼っていても
本当に やりたいことは なにもできない
自分のむなしさを 棚にあげて
周囲の人を恨むのは よそう
今は行動する時ではない
寝ている場を はぎとられる前に
自分自身を しっかりと見つめて
自分の心を養うことだ

旧暦10月 坤(坤為地)

彖に曰く、至れるかな坤元、萬物資りて生ず。乃ち順にして天を承く。坤厚くして物を載せ、德无疆に合う。含弘光大にして、品物咸く亨る。牝馬は地の類、地を行くこと无疆なり。柔順利貞、君子の行う攸なり。先んずれば迷いて道を失い、後るれば順って常を得。西南に朋を得るは、乃ち類と行くなり。東北に朋を喪うは、乃ち終に慶び有るなり。貞に安んずるの吉は、地の无疆なるに應ず。

地 水 火 風の四つの要素の
最初にあるのが 大地だ
勇ましい竜が 天に属するように
やさしい牝馬は 大地のもの
限りなく すこやかだ
宇宙の運行に従って
のびのびと 春の野を かけまわる
陰の方角である 西南に行けば
願いごとが通り 友が得られるしかし
陽の方角である東北では
ただ 孤立するばかりだ
偉大な 母の心のように
やさしく 暖かく 人を受け入れれば
あらゆることが まるくおさまる

旧暦11月 復(地雷復)

彖に曰く、復は亨るとは、剛反ればなり。動きて順を以て行く。是を以て出入疾无く、朋來りて咎无し。其の道に反復し、七日にして來り復るとは、天行也。往く攸有るに利しとは、剛長ずれば也。復は其れ天地の心を見るか。

古いものが去って 新しいものが来る
大自然の動きは 絶え間なく続き
運命が 入れ変わる
メリー・ゴーランドの動きのように
春が過ぎ 夏が終わって
厳しい冬に襲われても
再び 春はめぐってくる
万物はみな生々流転を繰り返す
心臓の鼓動のように
心の底から 湧き上がる
生命の流れのひびきを開こう
あらゆるものが もとに戻る時
暗闇の中に 新しい生命が誕生する
君のチャンスは 遠くない
無理をせず 自然の流れに従って
喜びと共に 動くのだ
旅人をひきとめ 人々を集めて
来るべき 春の祝いの祭典の
準備に力をそそぐ時だ

旧暦12月 臨(地沢臨)

彖に曰く、臨は剛浸くにして長じ、説びて順い、剛中にして應ず。大いに亨りて以て正し。天之道也。八月に至りて凶有りとは、消すること久しからざる也。

湖を見下ろす 丘の上に立てば
枯草の下に 緑が萌えだし
大地は 春の訪れを やさしく迎える
心は幼い喜びに満ちて
母の胸に 再び帰ろうとする
長かった冬も 終わりに近く
あたりには 春の気配が 満ち溢れる
雪どけの 水かさを増した湖は
まだ淡い 春の陽光を受けて
緑の岸辺に とどくばかりだ
冬至を過ぎれば
陽光は 日毎に強く 盛んになる
君の運勢も 日ざしと共に のび
心正しく 身を保てば
あらゆる願いがかなうだろう しかし
やがて 八月を過ぎれば 日ざしも弱まり
また 厳しい冬がやってくる
春の喜びを忘れてはならない
春のやさしい 大地のように いつも
心広く 喜びを持って 人々に近づこう

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