
電話サポートがなくなり、チャット中心になる。
飲食店では、タブレットやQRコードで注文し、会計までスマホで完結する。
私たちの暮らしはここ数年で一気に“セルフ化”へ振れました。
便利さは確かにあります。待ち時間が減り、手続きは早くなり、ミスも起きにくい。企業側の運用も安定し、記録が残ることで改善も回しやすい。合理的で、時代に合っているとも言えます。
一方で、「人が対応してくれない企業やお店に嫌悪感がある」「スマホ注文だと分かっていたら行かなかった」という声が出るのも事実です。これは単なる好みやわがままというより、便利さの中で私たちが失いつつある“満足の作り方”に関わる問題だと考えられます。
本記事では、IT化の先で起きている心の変化を「欲望の飽和が早くなる」という観点から整理し、ホームページ制作において、なぜ当社が「対話を重ねる伴走」を重視するのかまでを一つの線で結びます。
IT化の本質は「画面が増えること」ではありません
IT化と聞くと「アプリ」「AI」「チャットボット」「タブレット」といった“見えるもの”が先に浮かびます。しかし本質はそこではありません。IT化の核心は、これまで人が担っていたやりとりが、仕組みの中に組み込まれていくことです。
たとえば、次のような置き換えが起きています。
- 問い合わせ対応:電話 → チャット、FAQ、フォーム
- 注文:口頭 → タブレット、スマホ
- 会計:レジ → セルフレジ、キャッシュレス、アプリ決済
- 手続き:対面 → オンライン完結、本人確認の自動化
- 運用:手作業 → 予約システム、CRM/MA、RPA、AIの一次応答
企業側には明確なメリットがあります。ピーク時の対応を平準化しやすい。一定品質で案内できる。人員不足の影響を抑えられる。履歴が残るので改善が回しやすい。これ自体は真っ当な流れです。
しかし置き換えが進むほど、生活の中から「間(ま)」が消えていきます。達成までの距離が短くなり、結果がすぐに得られる世界へ移行していく。ここが、心の変化とつながっていきます。
商売のやりとりは、その土地の文化として育ってきました
商売は「商品と代金の交換」だけではありません。そこには、その土地の歴史の中で育った振る舞いが重なっています。
大阪の商人の「まいど」は短い言葉ですが、関係の温度を整える力があります。「常連として迎える」「気軽にしていい」「でも礼は失わない」――そうした意味が凝縮されています。
日本文化の「茶」も、現代の尺度で見れば手間の連続です。それでも所作や間が大切にされてきたのは、目的が“喉を潤す”だけではなく、心の置き方を整える価値があるからです。
こうした文化には共通点があります。
それは、効率とは別の軸で「満足」を作っていることです。
- ゆっくり進むこと
- 相手の気配を感じること
- 楽しみながら選ぶこと
- 間に意味が宿ること
この“余白”があるから、些細なことが嬉しくなる。短い一言が効く。ちょっとした配慮が印象に残る。文化はそうやって積み重なっていきます。
便利さが削りやすいのは「間(ま)」と「空気」です
IT化は、多くの摩擦を減らします。けれど同時に、摩擦と一緒に削られやすいものがあります。それが「間」と「空気」です。
たとえば飲食店で、店員を呼ぶ、目が合う、声をかける、迷いに気づいて説明が入る、という流れには、短い時間の中に小さな安心が含まれていました。
セルフ化が進むと、注文はスムーズになりますが、その安心を作っていた要素は薄れやすい。
- 不安を察してもらえる安心
- 困ったときに助けてもらえる安心
- 場を崩さずに進められる安心
- 人に任せてもよい安心
便利さの陰で、この安心が見えにくくなったとき、違和感や不満が出やすくなります。
飲食店の料金は「料理」だけではなく「体験」への対価です
この前提を踏まえると、セルフ化の評価は一段整理しやすくなります。
飲食店でお客様が支払っているのは、料理の味や量だけではありません。席に通される、空気が整っている、注文が滞りなく進む、困ったときに気づいてもらえる――こうした一連の体験を含めた価値に対して、料金が成立しています。
食事を“栄養補給”として最短で済ませたいなら、牛丼のような業態は合理的です。早く、安く、迷いが少ない。目的と手段が一致しています。
しかし、デートや会食のように「場」を買う食事では話が変わります。重要なのは、会話の流れを切らないこと、相手に気を遣わせないこと、場の空気を崩さないことです。
そこで注文がスマホ前提になり、操作に迷い、通信やUIに引っかかり、助けを求めにくい状況になると、それだけで“場の価値”は下がります。料理が同じでも「この価格でこの体験なら、別の選択肢でよかった」と感じやすい。これは自然な反応です。
つまり、セルフ注文や無人化が合うかどうかは、技術の良し悪しではなく、「店が提供している価値の中心がどこにあるか」で決まります。
日常の効率を重視する場面ではセルフ化が歓迎され、特別な時間を過ごす場面では、効率化が“価値の削減”として受け取られることがある。ここを外すと、便利なはずの仕組みが不満を生んでしまいます。
セルフ注文にするなら、「価格」か「価値」の再設計が必要です
セルフ注文は単なるオペレーション変更ではありません。体験設計として見ると、「店がどの土俵で勝負するか」を変える要素になり得ます。
セルフ化が進むほど、お客様の中では暗黙に「では、私は何にお金を払っているのか」という再計算が起こります。接客や安心の比重が下がるなら、次に求められるのは価格の納得感か、別の価値の明確化です。
セルフ注文を選ぶ場合、現実的な方針は大きく三つに整理できます。
- 価格を下げて“効率の土俵”で勝負する
早い・迷わない・安い。回転率で利益を作る。日常使いの価値を尖らせる。
この路線は筋が通っていますが、客層や利用シーンは変わります。デートや会食の“場”を主に売っていた店なら、土俵を移す覚悟が必要です。 - 価格は維持しつつ“人が出るべき所”を強くする(ハイブリッド)
注文入力はセルフでも、案内・提案・トラブル対応・会計前後など、体験価値の中心には人が関わる。
「困ったらすぐ人が出てくる」「迷いを察して一言入る」だけで、納得感は大きく変わります。 - 価格は維持し、体験価値を別の形で上乗せする(価値の再定義)
メニューの分かりやすさ、提案の質、情報設計、空間・音・照明、提供テンポの安心感などを磨き、接客の薄さを補う。
ただしデート店や会食用途のように“人の気配”が価値の中心にある場合、ここだけで補いきれないこともあります。
結局のところ、セルフ化が問題なのではなく、「セルフ化したのに、価格も価値も設計が変わっていない」ことが不満の原因になりやすいのです。便利さが目的なら価格の納得感が必要で、体験が目的なら人が関わる設計が必要になる――ここを外さないことが重要です。
満足が「結果」に偏ると、欲望の飽和は早まります
セルフ化は、利便性を高める一方で、体験の中に散らばっていた「小さな満足」を減らしやすい側面があります。
たとえば、店員に今日のおすすめを聞いてみる、料理の背景や食べ方を一言教えてもらう、会話の流れに合わせて提案が返ってくる――こうしたやりとり自体が、食事の楽しみを厚くしていました。
こうした満足の入口が減ると、体験の評価は「結果」に偏りやすくなります。
料理が早く届く、支払いが早い、手続きが終わる――達成は確かに気持ち良いのですが、その快さは長くは続きません。すると満足はすぐに飽和し、次の結果、次の結果へと移っていきます。
つまり、満足の持続ではなく「達成の回転数」で満たそうとする状態になりやすい。これが、欲望の“飽和が早くなる”ということです。
飽和が早い状態では、要求は次の方向へ寄りやすくなります。
- もっと早く
- もっと安く
- もっと確実に
- もっと多く
- もっと強く
ここで重要なのは、セルフ化が悪いという話ではありません。
セルフ化に合わせて「価格」か「価値」を設計し直せていれば、納得感は成立します。逆に、設計が追いつかないままセルフ化だけが先行すると、店が本来提供していた体験の価値が伝わりにくくなり、評価軸が「早い・安い・手間がない」といった日常の効率型に寄っていきます。
重要なのは「IT化」ではなく「設計のバランス」です
ここまでをまとめると、問題は「IT化するかどうか」ではありません。問題は、何を仕組みに任せ、どこで人が関わるのかという設計です。
ITが得意なのは、スピード、集計、記録、反復、案内の均一化です。
人が得意なのは、状況の読み取り、意図の把握、微妙な調整、納得の形成、そして信頼の構築です。
本来、ITは後者を消すためだけの道具ではありません。前者を仕組みに任せることで、人が向き合うべき部分に集中できる状態を作るためにも使えます。
にもかかわらず、効率化を優先するあまり、人が担う価値まで薄くなってしまうと、体験は痩せ、満足は結果偏重になり、飽和が早まっていく。これは飲食でも、サポートでも、サービス業全般でも起こり得ます。
ホームページ制作でも同じ構図が起きています
ホームページ制作の現場も、まさにIT化の中心です。テンプレート、ノーコード、AI文章、画像生成、解析ツール、予約・決済の自動化。できることは増え、形にするスピードは上がりました。
しかし、成果につながるサイトに必要なのは「形」だけではありません。
- 何を強みとして打ち出すのか
- 誰に、どのような価値を約束するのか
- どこで迷わせ、どこで決断させるのか
- どんな不安を先回りして解消するのか
- その会社らしい言葉は何か
これらは、対話の中でしか掴めない領域が大きいと考えています。
数値を見れば分かることもありますが、数値だけでは分からない背景もあります。事業には事情があり、顧客には感情があり、現場には制約があります。そこを理解し、設計に落とし込む力が成果を分けます。
ホームページは「公開した瞬間」がゴールではありません。むしろそこからがスタートです。ユーザーがどこで迷うのか、どこで離脱するのか、何が刺さっているのか。改善は継続が前提になります。
その改善を機械的に回すだけでは足りません。状況に応じて優先順位をつけ、言葉を整え、意図をすり合わせ、迷いを減らし、決断を後押しする。ここに人の仕事があります。
結論:私たちは「対話を重ねる伴走」を重視します
便利さは重要です。仕組み化できる部分を仕組みに任せることで、スピードと安定性は高まります。
ただ、便利さを優先するあまり、価値の中心まで無機質にしてしまうと、満足の入口は減り、欲望の飽和は早まりやすくなります。結果として、日常の小さな幸福感が痩せていく可能性があります。
だからこそ当社は、「ITでできること」と「人が向き合うべきこと」を分けて考えます。効率化や自動化を活用しながらも、最後に価値を生むのは 対話を重ねる伴走 だと捉えています。
ホームページ制作においても同様です。ツールが進化するほど、短期の制作スピードだけでなく、長期の改善を支える設計と、相談しながら前に進める関係が重要になります。
便利さの時代だからこそ当社は「対話」を大切にし、成果につながる設計と運用をご提供します。



