SNSイメージ

はじめに

日本の伝統的な「和」の文化では、個人が自己表現や自分らしさを強調することはあまり推奨されておらず、むしろ「空気を読む」ことや周囲と調和することが重んじられてきました。人々は集団や組織の一員としての役割を果たすことを重要視し、自分がどのように評価されるかという「承認欲求」よりも、「自分の役割を果たすこと」に価値を見出していました。

しかし、近年では個人主義の浸透やホームページ、ブログ、SNSの普及といった変化により、承認欲求が高まり、他者の評価を気にする人が増えています。本記事では、なぜ現代日本で承認欲求が強まっているのか、SNSがどのように影響しているのかを探ります。

1. 承認欲求が強まる要因

個人主義の浸透と価値観の多様化

戦後の急速な経済成長やグローバル化の中で、日本ではライフスタイルや価値観が多様化し、個人の自由が尊重されるようになりました。この変化により、自己表現や自分らしさを大切にする「個人主義」が浸透し、「自分の存在価値を他者に示したい」という欲求が高まりつつあります。自己表現が尊重される一方で、自分が他者からどう見られているかを気にする人が増えているのです。

安定した共同体の喪失と「自己責任」への価値観シフト

かつて終身雇用下の「会社」が与えてくれた安定と存在承認は、バブル崩壊と共に失われました。代わって浸透してきた「自己責任」の価値観のもと、自らの価値を証明するために外部からの承認をより強く求める傾向が強まっています。

SNSの普及

SNSの登場により、日常的に他者からのフィードバックが得られるようになりました。「いいね」やフォロワー数といった評価を簡単に得られる環境が整い、承認欲求が高まる一方で、他者からの評価に依存しやすくなっています。「和」の文化での自然な承認とは異なる、新しい形の「承認欲求」が生まれています。

孤独感の増加

「和」の文化が浸透していた時代には、家庭や地域、職場といったコミュニティが強い結びつきを持ち、人々は支え合って生きていました。これにより、孤独感はそれほど感じられない環境が整っていました。しかし、核家族化や一人暮らしの増加に伴い、現代では人間関係が希薄化し、孤独感を抱える人が増加しています。その孤独感を埋めるために、SNS上で他者からの承認を得ることで自分の存在価値を確かめようとする傾向が強まっています。

2. SNSのポジティブな側面とネガティブな側面

ポジティブな側面

SNSは個人にとって自己表現の場であり、多様な考え方や価値観を共有できるプラットフォームです。SNSを通じて多くの人が自分のアイデンティティを模索し、共通の興味や価値観を持つ人とつながることができるため、社会全体の創造性や多様性が促進されています。

ネガティブな側面

一方、他者からの評価に依存しすぎることで、自己肯定感が低くなり、精神的なストレスが増えるリスクもあります。また、表面的な評価が重視されがちなSNSの特性上、深い人間関係を築くことが難しくなり、心の充足感が得にくくなることもあります。

3. バランスを取ることの重要性

かつて日本の「和」の文化は、人々が家庭や地域、会社といった共同体の中で「自分の役割を果たす」ことに静かな誇りと満足感を見出す土壌を育んできました。しかし、社会構造の変化は、私たちに「他者からの承認」という、より直接的で可視化された価値基準をもたらしました。
SNSを通じて他者と繋がり、評価を得ることで自己を肯定することも、現代を生きる私たちにとって一つの術です。しかし自己表現の可能性を広げる一方で、他者評価への依存や精神的な不安定さという課題を生み出しているのではないでしょうか。